前回は、体幹部(肩甲骨、胸腰椎移行部、骨盤)の連動性について見てきました。もちろん体幹部の連動が基本になるのですが、体幹部の連動を引き出す、また、力を末端に伝えるには四肢、腕、脚が重要になります。
腕、脚においても「連動」が見られます。今回は、腕、脚の連動性についてお話します。
4・連動性について・・・
その2 四肢の連動性 上肢編
野球のピッチャー、テニス、バドミントン、ゴルフ等で必ず出くわすのが、「リストの強化」です。
当然と言えば当然です。ボールを投げる際、ラケットやクラブを振り抜く際、手首が深く曲がって力を加えます。
すなわち、手首を曲げる力が強ければ、より大きな力を加えられるため、速い球を投げる、ショットのスピードやヘッドスピードを上げるといった目的で手首の筋力強化が行われます。
普通に考えると理にかなっています。なにも間違ってはいないと思われるでしょう。
本当にそうでしょうか?
これは重力を利用した身体の使い方の原則である「筋肉の収縮力に頼らない」に当てはまりません。
では、どう考えればいいのでしょうか?
解決方法は、腕と脚の連動です。
結論から言いますと、前述した体幹部の連動が行われることが前提になりますが腕と脚も連動して動きます。
解決のカギになるのが股関節の使い方でお話した「螺旋の動き」つまり、捻られながらの動きになります。
簡単な例で実際にやってみましょう。
良くない例えですが、火のついたタバコを足元に落としたとしましょう。あくまで想像です。火を消そうと右足の爪先で踏んづけます。
しっかり消すため足先をグリグリ左右に素早く捻ってみましょう。
グリグリやりながら、右腕がどう動いているか確認してみてください。
足の動きに合わせて、腕も内外に捻られていませんでしょうか?
基本的に殆どの人は、右足が内側に捻られると右腕も内側に、右足が外側に捻られると右腕も外側に捻じれて動きます。これが腕と脚の連動性の一例です。
間違ってはいけないのは、捻じれの動きは足首、手首で行っているのではないということです。あくまで股関節、肩関節から捻られていることが重要です。
つまり、ボール、ラケット、クラブを加速させるのは手首ではなく、股関節、肩関節の螺旋の動きの連動によって生み出されるものなのです。
なぜそう言えるのか?詳しく見ていきましょう。
股関節は骨格の構造上螺旋の動きをするのが自然である。という説明は股関節の使い方の項でしましたので省きます。
まず肩関節を見ていきましょう。
肩関節は「肩甲上腕関節」と言います。肩甲骨と上腕骨で作られる関節だからです。形状は「球関節」といい、球状の骨頭が臼上の関節面に入った形であり、股関節と基本的には同じ構造ですが可動性は肩関節の方が優れています。
肩関節の場合、第一に関節の入りが浅いこと。
第二に上腕骨が肩甲骨の真横についていること。何より、肩甲骨自体も動くため可動性が非常に高いのです。
肩甲骨の可動を含めてしまうと肩関節単独の可動とは異なります。ですが、肩甲骨が動かないものとして考えたとしても股関節に比べ、やはり可動性に優れています。
股関節の場合、骨盤と大腿骨の形状、関節面の構造上、自然に「螺旋の動き」になるようになっています(股関節の項参照)。
ところが、肩関節の場合、可動性に優れているため「直線的な動き」も構造上可能です。
ではなぜ肩関節も「螺旋の動き」捻じれの動きの方が自然だと言えるのでしょうか?
それは、筋肉の付き方を見れば明らかです。
代表的な筋肉を見ていきましょう。
大胸筋 広背筋 ローテーターカフ(棘上筋 棘下筋 小円筋 肩甲下筋)この3つを見ていきましょう。
メジャーな筋肉です。スポーツやトレーニングを経験した方なら
一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
では、一つずつ見ていきましょう。
・大胸筋
男の人なら一度は、たくましい胸筋に憧れるでしょう。鍛えて大きくして、海に繰り出した経験のある方も多いでしょう。
今回、注目していただきたいのは、停止部です。図を見て頂ければお分かりだと思いますが、大胸筋は胸郭から始まって(起始部)、上腕の骨に付きます(停止部)。
上腕骨の前を通って外側についているのです。
つまり上腕骨を巻き込むように走行しています。
上腕骨を輪切りにして上から見るとこうなります。
ということは、大胸筋が収縮すると上腕骨は内側に捻られます。この動きを内旋と言います。
大胸筋が収縮すると、腕を前に付きだすだけでなく、腕を内側に捻る作用もあるのです。
利重力身体操作法では、張力を引き出すことが重要です。張力を引き出すには収縮方向と反対方向に動かします。大胸筋の場合、腕を後ろに引いて外側に捻るように動かします。
ゴムのように伸ばされた大胸筋は、反射的に反対方向に収縮するため腕が内側に捻られながら前に放り出されます(ボールを投げるような動作)。
大胸筋の働きによって、上腕が捻じられながら後ろから前に動かされます。・・・・「螺旋の動き」ということになります。
・広背筋
広背筋も良く知られて筋肉です。背中の筋肉といえば、真っ先に名前が出てくる筋肉です。
ここでも停止部を注目してみましょう。
上腕骨に付いています。よく見ると肩甲骨と腕の間を通って上腕骨の前方に付いています。背中の筋肉ですので、後ろから前に伸びているということになります。 大胸筋と同じように上から見てみましょう。
上から輪切りにすると右図のような位置関係になります。広背筋は背中側から腋の下を通り上腕骨の前方に付いています。ということは、広背筋が収縮すると腕は内側に捻られます(内旋)。
つまり、広背筋は腕を下げるだけでなく腕を内側に捻る作用があるのです。
ここでも張力を引き出すように考えてみましょう。
収縮と反対方向に動かすので、腕を挙げて外側に捻ります。ここで間違えやすいのが前腕(手首)を捻って、「あれ?」と思ってしまうことです。
広背筋は上腕骨に付いているので、上腕を外側に捻る(腕を上に挙げた状態であれば、肘の内側が目線に近づく)ということです。
その動きによって広背筋が伸ばされ、収縮に転じます。
すると、腕が下がりながら内側に捻られます。
捻じられながら上から下に動く・・・・「螺旋の動き」ということになります。
・ローテーターカフ
「ローテーターカフが、・・・」
なんて言うと「お、知ってますね~」そんな感じになる筋肉達です。
肩の「インナーマッスル」として知られる筋肉群です。
インナーマッスルとは、身体の表層を覆う大きな筋肉達「アウターマッスル」に対して、より深層にあり、関節に近いところに位置する小さな筋肉達の俗称です。
ローテーターカフとは、肩甲骨に付いている4つの筋肉の総称で、後ろから見たとき、 上から「棘上筋」「棘下筋」「小円筋」と並び、その裏側、前から見ると肋骨側の全面についているのが「肩甲下筋」です。
このローテーターカフ、肩のパフォーマンスを左右する重要な役割があり、痛めやすい部分でもあることから、鍛えるべき筋肉として取り上げられます。
一先ず、停止部を見ていきましょう。上腕骨の頭の部分を包むように付着しています。
それぞれ、肩甲下筋は上腕骨の頭の前に付いているので「大胸筋」と同じく腕を内側に捻ります。棘下筋と小円筋は、上腕骨の頭の後ろから回って外側についているので、腕を外側に捻ります。
一番上についているのが棘上筋で、他のローテーターカフ筋の働きを上からサポートします。
単純に言うとローテーターカフの作用は以上なのですが、図をもう一度見てください。筋肉の動きにとらわれず、骨の動きを想像してみましょう。
この場合、上腕骨が様々な方向に動いた場合を想像してみてください。
上に挙げても後ろに引いても前に出しても4つの筋肉が上腕骨の頭に巻き付くように働くのがお分かりいただけるかと思います。
それぞれ、内捻り、外捻りの作用を持つ筋肉達が巻き付くように働くため、生み出された張力によって発現する動きは多様な方向に対する「螺旋の動き」となります。
つまり肩をどんな方向に動かしても常に共同して働き、螺旋の動きを引き出す。これがローテーターカフの重要性なのです。
競技力を向上させるためには競技動作に即した動きでトレーニングをする必要があります。
単体の筋肉の作用から関節の動きを導きだすのではなく、骨、関節が動くと筋肉達は、どのように働かされるのかという視点で見ることが実際の競技動作とリンクさせるためには必要になります。
つまり、人の動きを見る場合は、筋肉を見るのではなく骨がどう動くかを見ることが重要なのです。
そう考えると、ローテーターカフの4つの筋肉を個別に鍛えてもパフォーマンスの向上、ケガの防止にはつながらないということがお分かりいただけるかと思います。鍛えるべきは4つの筋肉達の協調性ということになります。
以上の肩周辺の筋肉の付き方から推察できることは、肩関節は直線的な動きではなく、螺旋の動きに向いているということです。
体幹部の連動によって生まれた力は肩甲骨を介して腕に伝えられ、肩関節の螺旋の動きによって捻りながら腕が振られます。
ムチのようにしなりながら肘から手首に力が伝えられ、最終的に手首が深く曲がり、指先まで力が伝えられるのです。
あくまで、結果的に手首の可動が起こるのであって始めから手首を意識的に曲げようとするものではないのです。
リストの強化とは、前腕の筋力を強くして意識的に手首を曲げるのではなく、体幹部からの力を螺旋の動きによって、より多くの筋肉群の張力を効率的に引き出し、滞らせることなくムチのように手首から指先に伝える一連の動作習得を指すのです。
次回は、下肢編、股関節を見ていきましょう。
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