身体能力の限界について
ネガティブに考えると、
ゴールが遥か彼方過ぎて気が遠くなる話・・・・・・
「人間は、トレーニングを重ねれば重ねた分だけ筋力が強くなっていくのか?」
「筋肉はどんどん大きくなっていくのか?」という疑問。
残念ながら人間である以上、やはり物理的に限界があります。
骨格が決まっている訳ですから筋肉のつく量もおのずと決まりまってしまいます。
どんなに筋トレをしても、ヒグマや白熊のようにはなれません。生物の形状はDNAで決定されているので、おのずと限界というものがあります。
某世界的大ヒット漫画のス―パーサ〇ヤ人のように修行すればする度に爆発的に強さが増す、というわけにはいきません。
仮に全く副作用がない筋肉増強剤があったとしましょう。使用した結果、限界を超えて筋肉が大きくなった場合、問題が生じてしまいます。
筋肉が大きくなるということは、組織が大きくなるということなので酸素の消費量が多くなり、それだけ血液が必要になります。隅々まで血液を送るには心臓の負担が大きくなってしまうのです。
それでは、心臓を強化すれば良いのでは?となるのですが、血圧がべらぼうに高くなり、今度は血管が耐えられなくなります。
といったように一部を以上に強化すると連鎖的にすべての組織を強化せねばならなくなります。
「いやいや、ゾウやキリンは、あんな大きな身体を維持できているじゃない?」
確かに、しかし、それはもうゾウやキリンであって、人間ではないのです。
人間である以上、残念ながら限界はあるのです。
そもそも、競技パフォーマンス向上=筋力アップという考え方から脱却する必要があります。
また、神経の反射速度にも限界があります。
神経の伝達スピードは、最も速い神経線維(Aα繊維、伸張反射で使われる神経)で60~120m/秒です。
例えば、ざっくり計算すると太腿の筋肉が脊髄の反射で動かされる場合、0.006秒~0.012秒ということになります(計算が合っていれば・・・)。
実際は、筋肉が収縮するまでの時差があります。また神経細胞と神経細胞の間の伝達、神経細胞と筋肉細胞との間の伝達はシナプス間隙での化学物質による伝達になりますから、計算よりもう少し遅くはなりますが、これはこれで素晴らしく速いのがお判りいただけると思います。
ですが、やはり神経の伝達速度があるということは、これ以上のスピードで反応することは不可能です。
人間の身体能力において筋力も反射スピードも一因子にすぎません。
実動作におけるパフォーマンスは、その他の因子である瞬発力、持久力、バランス、巧緻性、柔軟性と、これらの因子の掛合わせによって複合的に表現されるものです。
と、ここまでは良く言われるところです。
実は、これらの因子を円滑に複合させる決定的な要因があります。
それが「正しい姿勢、動作」になります。
個々の因子のパフォーマンスを最大限発揮し、それぞれを連携させるには正しい動作が必要ということなのです。
つまり、競技パフォーマンスを向上させるということは、競技動作の精度を上げていくことに他ならないのです。
「競技パフォーマンス=筋力」で考えてしまうと当然限界が決められてしまいます。
ところが、動作の精度を上げていくことに関しては「限界」がありません。
どういうことでしょう?
究極の出力方法は、まったく筋力を使わずに大きな力を出すことです。
厳密に言えば不可能ですが、近づけていくことは可能です。
地球上にいる限り、常に重力がかかっています。力を抜けば地面に落下します。落下すると下には地面があります。
着地することで身体には衝撃が加わります。この衝撃を地面からの「反力」といいます。「落下」と「反力」を利用することで筋力を極力使わず、より大きな力を生み出すのです。
とこのように、正しい姿勢で落下し地面に着地すると、反力により体幹部が反ります(胸腰椎移行部が伸展)。
すると体幹部の筋群が伸ばされ、筋肉の張力が引き出されます。張力が引き出されると伸張反射により筋群は収縮に転じます。
体幹部が丸まる方向に動かされジャンプ(出力)されます。
正しい姿勢が取れない状態だと着地の瞬間に潰れてしまします。潰れないようにするだけでも大変な筋力を使ってしまいます。
更にジャンプするには、より大きい筋力が必要になってしまいます。
力を使わずに大きな出力を生むには、正しい姿勢が必要不可欠ということがお判りいただけると思います。
ただ、簡単に書いてしまいましたが、実践するのは、なかなか難しいことなのです。
まず、落下中に正しい姿勢をとるのですが、力によって姿勢を作っていては、もとより筋力を使っていますし、「反力」を得たときに力みにより反射機能を引き出せません。
力を使わずとも理想的な姿勢が取れる状態が必要であり、その為には関節の可動域、ポジショニングが良好な状態にある必要があります。
ここに、競技やスポーツを始める際の「身体づくり」の重要性があるのです。
なかなか難しい作業ですが、これを競技動作に応用するわけです。
例えば陸上100m 要は「走る動作」の一歩をピックアップしてみましょう。
落下と着地による地面からの反力を利用して体幹部の反る丸まるを引き出したいのですが、前図のように真上から落ちて膝が伸びきっているわけではありません。前に進んでいますし、膝が曲がって着地します。
腕の振りもあります。腕、脚を利用して肩甲骨、骨盤の可動により胸腰椎移行部の伸展動作を、力を使わないで行わせる。しかも瞬間的に・・・
難易度が飛躍的にアップします。
人間も物体なので、物理の法則が適応されます。
理想的に胸腰椎移行部を伸展させるには、おのずと理想的な力の方向、ベクトルが決まってきます。その理想的な方向に力を向かわせるように足の着地位置やひざの角度、骨盤の向き、腕振りの角度なども決まります。
すべてを一瞬で寸分違わない理想的なポジショニングで行う必要があるのです。
厳密に言ってしまうと、走りの一歩だけでもこれほどの精密さが要求されます。
100m走の場合、46~50歩(ボルト選手は41歩だそうです)で走ると言われますから、
寸分たがわない一歩を46~50回繰り返す必要があるのです。
さらに100mでは、スタートダッシュ、中間疾走、ラストスパートと走り方が変わります。
この過程を限りなく力を使わず、落下と反力による外部からの力を腕や脚の角度を調整し胸腰椎移行部に集約させるようにベクトルを向けさせ体幹部の出力を引き出します。
しかも、100m走であれば、0.01秒、あるいはそれ以下の一瞬の間に行わせる必要があり、さらにこの過程を46回~50回反復しなければなりません。
わずかなポジション、タイミングのズレ、力みも許されません。
動作の精度を上げるとはこういうことなのです。
マラソンであれば、瞬間的なスピードは遅くなりますが、回数が桁違いに多くなります。42.195キロの間反復し続けるという難しさがあります。
例えが正しいか分かりませんが、「スーパーマリオ」のステージを最短時間でクリアする場合、Bダッシュボタンを決して緩めないでプレイする必要がありますが、Aジャンプボタンを押すタイミング、押している時間がわずかでもズレてしまえば、敵キャラクターにぶつかったり、穴に落ちたりしてしまいます。
「テトリス」のレベル99を最短でクリアするには、瞬間的に先読みしながら、どの形のブロックをどこにどの順番に配置するかを判断する必要があり、これも僅かにでもズレれば、全てが狂ってしまいます。
これらの100万倍難しいというイメージです(かえって分り難いかな・・・)。
ともあれ、気が遠くなるような精度が求められるのですが100%の理想形が解れば、その理想の動作に限りなく近づけていくことは可能です。また、そこには限界がありません。
例えば、99%までできたとしても、さらに99.9%まで近づけることは可能です。このように99.99%、99.9999%、99.999999999999%と動作の精度を上げることには限界がないのです。
不思議なことに100%の理想形態が解るのに100%に達することはできない。もし100%に達したとき、それは、もう「神の領域」になります。
似ていると感じるのが、「真円」と「光速」の話。
例えば、円周率、現在6兆桁?以上計算されているようですが、割り切れる様子はありません。ということは、単純に考えると完璧な「真円」は存在せず、限りなく真円に近づけていくことが可能なだけ、ということなのでしょう。
でも、完璧な真円はイメージできます。存在するようにも思えます。
また、光の速度は秒速36万キロメートルで、物質が光の速度に達することはできないと言います。
光の速度に近づけていくことは理論上可能だそうですが、光の速度に99.99%、99.9999%、99.999999999%と近づけば近づくほど、その物質の質量が増大していき、さらに加速させるのには膨大なエネルギーが必要になり、時間の経過が遅くなるとのこと。
仮に光の速度に達すると、質量が無限大になり、時間が止まる。よって光の速度に到達することは不可能。
・・・・・ちょっと何を言っているのか私には解りませんが・・・・・。
しかし、我々の目が見えるということは、光は我々の周りに存在し、我々は光を認識することができます。
存在するはず。あるいは存在するのに到達できない領域。
身体動作も物理の法則でいうと同じことなのでしょう。
完璧な動作は、存在するはずだし、イメージもできるが、到達できない。
到達できないが、限りなく近づけていくことは可能。
人間のパフォーマンスを向上させるために、筋肉量を多くしたり、反射速度を高めたり、持久力を高めることには、生理的に限界があります。
ところが、理想的、完璧な動作に近づけていくことに関しては限界がないということなのです。
その結果、あくまで「結果的」に、その競技やスポーツに必要な、筋力、瞬発力、持久力、バランス、巧緻性が複合的に向上するということなのです。
このことを実感できると、
「競技パフォーマンス(身体能力)の向上に限界はあるか?」との問いに対して、
「ない!」と言い切れてしまうのです。
ゴールがはっきり見えれば、向かうべき方向が明確になります。
山の頂上が見えれば、あとはまっすぐ歩いていくだけということになります。
ポジティブに考えると、可能性は無限大という話・・・・・でした。
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