(後編 下肢編)
前回は、上肢の筋肉の付着部、特に停止部に注目して筋肉の走行から肩関節が捻りながら動く(螺旋の動き)方が自然であるとお話しました。
同じように股関節周囲の筋群も見ていきましょう。
股関節周辺の代表的な筋肉
腸腰筋 縫工筋 内転筋群 深層外旋六筋の4つを見ていきましょう。
・腸腰筋
2回目の登場です。
トップアスリートのハイパフォーマンスを解説する際「腸腰筋が強いですね!」が決まり文句になるほどメジャーな筋肉です。体表からは見えない、いわゆるインナーマッスルの一つです。
体幹部の項でもご紹介しました。2~3つの部位から成ります。
では、停止部を確認してみましょう。
大腿骨の後ろにコブがあります。「小転子」と呼ばれています。
図を見て頂ければお分かりの通り、大腿骨の後ろに回り込むように付いて
います。
腸腰筋が収縮すると、大腿骨を持ち上げながら外側に捻るように動かします。腸腰筋の張力を引き出す(伸ばす)には、逆の動き、大腿骨を後ろに引きながら、内側に捻ります。張力を引き出さた腸腰筋は、反射的に収縮し内側から外側に大腿骨を捻りながら前に振り出します。
捻られながら動く。腸腰筋も股関節の「螺旋の動き」に大きく関与します。
・縫工筋
人体で最も長い筋肉です。もう図を見て頂いただけでお判りでしょう。
骨盤の外側から脛の骨の内側に付いています。斜めに走行しているため、腸腰筋と同様に股関節の「螺旋の動き」に関与します。
・深層外旋六筋
「梨状筋」「外閉鎖筋」「内閉鎖筋」「上双子筋」「下双子筋」「大腿方形筋」の6つの筋肉の総称です。
股関節のローテーターカフ的な存在です。
特徴的なのは名前の通り6つの筋肉があり、骨盤から大腿骨の上端に付き、6つとも股関節の外旋作用があります。 よって、この筋肉達が硬くなってしまうと、ガニ股になりやすくなります。 他の作用として大腿骨を内側に寄せたり、股関節の伸展(座った状態から立ち上がる)の働きがあります。
以上の事から捻り動作を伴いながら股関節を伸ばす作用があるので股関節に「螺旋の動き」を行わせます。
深層外旋六筋、うんちくですが、仲間はずれが一つあります。それは、「外閉鎖筋」です。外閉鎖筋だけ支配している神経が違うため、支配神経で分類すると内転筋の仲間になります。
・内転筋群
内ももの筋肉群です。図にあるように5つの筋肉の総称になります。
内転筋群、名前通り股関節の内転が主な作用です。股関節の内転とは、開いた脚を閉じる動きを言います。
停止部をみてみると大腿骨の後ろ側に付いています。ということは内転筋群が収縮すると内側に脚を閉じながら大腿骨を巻き込むように脚が外側に捻られます。この時点で股関節を捻りながら動かす作用があることがお分かりいただけると思います。
では、張力を引き出すにはどうすればいいか?
作用の逆の動き、脚を外側に開きながら内側に捻るように大腿骨を動かせば良い。と今まで考えてきましたが、人間の実際の動きに照らし合わせると、それほど使われる動きではありません。
少し視点を変えてみましょう。人の実際の動作を考えた場合、最も内転筋群が働くのは、大腿骨が前後に動く時に張力が引き出されます。
つまり歩く、走る、といった動作です。
大腿骨が前に振り出された時、後ろに流れた時どちらに大腿骨が動いても股関節に「螺旋の動き」を行わせる働き者の筋肉です。
実は、内転筋群だけでなく、これまで挙げた筋肉達、「腸腰筋」「縫工筋」「深層外旋六筋」も歩く、走る際の大腿骨の動きによって張力を引き出され、螺旋の動きをさせるように働きます。
脚が内側位捻られながら後ろに流れると腸腰筋、縫工筋の張力が引き出されます。
内転筋、深層外旋六筋は、前後どちらに振られても張力が引き出されます。
この股関節の動きに、腸腰筋、縫工筋、深層外旋六筋、内転筋の「張力」を引き出す方向を当てはめてみましょう。
これらの筋群が無駄なく一様に働かされるのがお分かりいただけるかと思います。張力が引き出された筋肉が伸張反射によって収縮に転じて脚を前方に振り出します。力を入れなくても脚が勝手に前に出ます。
ということは、股関節を螺旋のように動かして歩いたり、走ったりすれば下肢を効率的に使わせることができるということなのです。
いかがでしょうか。解剖学的に筋肉の走行、関節の構造から考えれば、このような螺旋の動きによる歩行、走行が自然で理想的な脚の動かし方、ということが言えるのです。
以上のように肩関節、股関節周囲の筋肉のほとんどは、捻じれるように付いています。以前登場した大殿筋や大腿筋膜張筋も同様です。
直線的に付いている筋肉の方が少数派なのです。よって、肩関節、股関節は筋肉の付き方から考えて、直線的に動かされるものではなく「螺旋の動き」が自然な動きであると結論付けることができます。
さて、連動性を語る上で避けて通れないのが「反射」の働きです。股関節の動きのところでお話した「伸張反射」と「相反神経支配」が代表例です。その他にも四肢の間にはいろんな反射があります。
その中の一つに「前肢後肢反射」というものがあります。
猫の左前脚に刺激を与えると左前後脚が伸びて、右前後脚が曲がるという反射機能です。四足で歩く際に使われる機能です。
「基礎運動学 第6版より」
この反射は人間にもあります。人間も四足歩行の名残があり、腕や脚は、このような反射機能に支配されています。 反射とは大脳の支配を受けない動きで、最も自然な本能の動きと言えます。
つまり神経系の働きによって四肢は反射的に連動するように出来ているのです。
無意識下で反射的に四肢が連動した場合、これまで見てきたように、それぞれの関節は筋肉の付き方から導き出される「螺旋の動き」をすることが最も自然です。
反射機能によって起こる四肢の連動、筋肉の走行から生み出される関節の螺旋の動きによって四肢末端がムチのようにしなり、先端部を加速させます。
ムチの先端は、自分では動きません。根元の動きによって加速されます。
人間の身体も同じなのです。
「螺旋の動き」は、あくまで胸腰椎移行部、肩甲骨、骨盤の連動による体幹部の歯車の力によって誘導されるものです。体幹部からの出力、もっと言うと胸腰椎移行部からの出力によってボールやラケットを持っている手や指を加速させるのです。
身体の中心から末端への力の「流れ」が重要であり、「流れ」を止めることや邪魔をしないことがパフォーマンス向上のカギになります。前腕の筋力によって手首を曲げると、力の流れを分断してしまいます。タイミングよく手首の動きがシンクロしたとしても、それはたまたま、偶然であり再現するのは非常に難しいのです。
これは下肢も同じです。足首の動きで蹴ることは、胸腰椎移行部から股関節に伝えられた力の「流れ」を足首で止めてしまうことになるのです。
再現性は競技では非常に重要な要素です。再現性とは、例えばゴルフでスイングをした場合、何度振っても同じ軌道で振れることです。
フォーム、スイングが正確に再現されなければ、安定したパフォーマンスは発揮できません。ゴルフでもスイングごとに軌道が違っては、ボールがどっちに飛んでいくのかさえままならなくなります。
意識的に末端の関節を動かして筋力を使うことは、全体の動きを不正確にします。上手くシンクロするかどうかは、いわば「賭け」のようなものです。
そうではなく「反射」の機能を使い、関節の構造、筋肉の走行に沿った自然な動き、本能の動きで動作をさせた方が正確に動け、再現性も桁違いに上がります。結果、パフォーマンスが向上していくということなのです。
つまり、リストの強化が速い球を投げること、ショットのスピード、ヘッドスピードを上げることにつながるわけではないということになります。
反対に手首を曲げるという動作を反復することで、動きの癖がついてしまい、手首が出しゃばり、全体の力の流れ、連動を邪魔してしまう可能性が高くなります。
リストを強化するにしても、胸腰椎移行部、肩甲骨、骨盤の連動性、螺旋の動き、力の流れを理解した上で動きにリンクした形で行わないと効果が半減するだけでなく、マイナスになる可能性があるのです。
次回は、そろそろまとめに入ります。
動作の原則!
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