☆股関節で立ち上がる。
「股関節で立ち上がる?どういうこと?膝を使わないと立てないでょ?」
と思われるでしょう。
確かにイメージしにくいですよね。アスリートと赤ちゃんの股関節の使い方を見てみましょう。百聞は一見に如かず、少ない力で効率よく力を出す股関節の使い方。
ポイントは「骨盤前傾」と「螺旋の動き」になります。
「骨盤前傾」と「螺旋の動き」が同時に行われることで、股関節の爆発的な力を引き出すことができます。アスリートの驚異的な下半身の強さと、非力な赤ちゃんがしゃがんだり、立ち上がったりすることができる秘密は、この動きによるものなのです。
では、「骨盤前傾」と「螺旋の動き」をした時、股関節、膝関節に何が起こっているのでしょうか? そのメカニズムを見ていきましょう。
腕の使い方で、ポイントだったのは、手にかかった負荷を、肘で処理しない。腕の中心を肘ととらえない。肩甲骨を中心にとらえ、肩甲骨に負荷を伝える。というお話をしました。
上肢と下肢の構造は、非常に似ています。
よって脚の使い方も腕の使い方と考え方は同じになります。肘にあたる部分が膝で、肩甲骨にあたる部分が骨盤(寛骨)になります。
違いは可動性です。良く動く肩甲骨と動かない骨盤。
下肢は、動かない骨盤をいかに使うのかがポイントになります。骨盤を上手に使うために重要なのが股関節の使い方になります。
骨盤をうまく使うには、股関節周囲の筋肉が力んで動きが固いと上手く使えません。また逆に、股関節周囲の筋肉の力みを取り去り、上手に動かさせるためには骨盤をうまく使うことで可能になる。といった相互作用があります。
その具体的な骨盤と股関節の動きが「骨盤の前傾」と「股関節の螺旋の動き」ということです。
まずは、骨盤前傾。
次は、螺旋の動き。
骨盤が太ももを外側に押し込みます。
膝が外を向いて股関節に捻じれが生じます。
この股関節が曲がりながら捻じられる動きを「螺旋の動き」と言います。
立ち上がりの際、前から見てみましょう。
座った状態から、骨盤を前傾させていきます。骨盤が太ももの間に割り込んでいきます。
膝が外側に広げられます。股関節が曲がりながら外側に捻られます。
大事なのは、自分で膝を開くのではなく、骨盤が太ももの間に割り込むことで自然に開かれることです。
自然な動きをさせるには力みは禁物です。脚の力を抜いて楽な状態で行います。上肢の肩甲骨と違って、可動性のない骨盤を使うには、体幹部の重さを利用し骨盤を前傾させ、股関節の螺旋の動きを誘導します。
反対に、力を抜いて股関節に螺旋の動きをさせれば、骨盤の前傾がやりやすくなります。一連の骨盤と股関節の動きによって膝を伸ばし、立ち上がりを行うわけです。
では、まず股関節を使って立ち上がる利点を挙げてみましょう。
①伸張反射による動作の効率化
②螺旋の動きによる筋肉の動員増
③大腿筋膜の膝の固定による疲労減
④ハムストリングスの起始と停止と膝との関係
以上4項目によって得られる膝への負担軽減
一つ一つ見ていきましょう。
①伸張反射による動作の効率化について
「伸張反射」
ここまでも「筋肉は伸ばされると反射的に縮みます」という説明が何度か出てきました。簡単に言うと、これが伸張反射です。
反射とは、筋肉や皮膚からの信号が大脳に到達する前に脊髄だけで筋肉を動かすことです。大脳に信号が到達する前なので無意識に行われる運動です。
良く知られている反射は、熱いものを触ったときに「アチッ!」と腕を縮める反射、「屈曲反射」と言われます。人間の運動は、他にもいろんな反射機能で支えられています。
さて、伸張反射の働きで伸ばされた筋肉は、反射的に縮みます。勘違いしやすいのは、伸張反射を起こすには、筋肉を目一杯伸ばさないといけないと思いがちですが、そんなことはありません。伸張反射を起こさせるセンサーが筋肉内にはあります。「筋紡錘(きんぼうすい)」と呼ばれます。筋紡錘は、伸びたことを感じるセンサーではなく、筋肉の長さを感知するセンサーです。
つまり、筋肉の長さが変われば、スイッチが入るのです。ということは、伸ばし切らなくても伸張反射は起こるということになります。ただ、そのままだと、筋肉を動かした途端、伸張反射が起きて痙攣したようになってしまいますが、実際はそうなりません。きちんと抑制する神経が備わっていて、運動をスムーズに行えるようにしてくれています。また、どの長さで伸張反射を起こさせるのかを前もって調整する働きも備わっています。
「主動筋」と「拮抗筋」
例えば、肘を曲げる際、肘を曲げる作用を持つ筋肉
(上腕二頭筋)を「主動筋」と言います。
その反対側に位置する筋肉で、主動筋と反対の作用を
持つ筋肉、この場合、肘を伸ばす作用を持つ筋肉
(上腕三頭筋)を「拮抗筋」と言います。
主動筋と拮抗筋の考え方は相対的なものです。逆に、肘を伸ばそうと上腕三頭筋を使った場合、上腕三頭筋が主動筋であり、上腕二頭筋は拮抗筋となります。
伸張反射が主動筋に起きると拮抗筋に対してもある信号が行きます。
それは、「力抜いて!」です。
これを「拮抗抑制」と言います。
この拮抗抑制、何の意味があるのか?簡単に言うと、筋肉同士で動きの邪魔をしない働きです。伸張反射により、筋肉が収縮します。同時に拮抗抑制が起これば、反対側の拮抗筋の力が抜けて、関節がスムーズに動きます。
拮抗筋が力んでいると動きを止めてしまいます。筋肉同士で綱引きをしてしまい、効率的に動けません。車で言うと、アクセルとブレーキを同時に踏んでいる状態です。
更に、反対側の四肢にも影響します。
例えば、右腕の筋肉に伸張反射が起きると、左腕の筋肉にも同じような信号が送られます。伸張反射が起こった筋肉本体だけでなく、拮抗筋や反対側の筋肉に同時に信号が送られ、働かせます。これは「相反神経支配」と言って反射的に歩くための機能です。
つまり、人間は大脳がなくても、反射機能だけで歩行することが可能なのです。人間には元々、効率的に動くことができる機能が備わっています。
反射機能をうまく利用できれば、効率的な動きが可能になるということなのです。
その反射機能を邪魔してしまうのが、「力み」ということになります。
以上が伸張反射の基本的な考え方になります。
この伸張反射の働きを使って腿裏の筋肉(ハムストリングス等)で立ち上がりをします。伸張反射を起こすには、筋肉を伸ばす必要があります。
正確に言うと前述したように長さを変えればいいだけなのですが、煩雑になるので、筋肉のバネをイメージしやすく「伸ばす」と表現します。
立ち上がりの際、どのように裏側の筋肉が膝を伸ばして立ち上がりを行わせるのか、まずは、大腿四頭筋と比較しやすいように横から見てみましょう。大事な条件は、足が地面に着いていることです。
大殿筋の腸脛靭帯移行部とハムストリングスの起始と停止についてはご紹介済みなので省略します。簡単に言うと骨盤の下と脛の骨を結んでいます。
この筋肉達で膝を伸ばして立ち上がるのですが、
図を見て、多くの方は「いやいや、やっぱり無理があるでしょう!」と思われるでしょう。そうそう、もう一つ条件がありました。
それが「骨盤前傾」です。
体幹部の重さを使い骨盤を前傾させると骨盤の下端が引かれるため、腿裏の筋肉が伸ばされます。
伸ばされたハムストリングスは、伸張反射により収縮します。
実際の模型で見てみましょう。
骨盤にあたる部分から 脛にあたるところにゴムを付けます。
ハムストリングスと同じ付着部位です。
骨盤を前傾させて、ゴムを伸ばすと・・・
いかがでしょうか?
足が地面に固定され、体幹部の重さを利用し骨盤前傾を使うと、腿裏の筋群の伸張反射により膝が伸び、骨盤が立ち戻るのがお分かりになるかと思います。
大腿四頭筋はこの時、ハムや殿筋の収縮を邪魔しないよう拮抗抑制によって弛緩します。大腿四頭筋の収縮力での立ち上りに比べ、腿裏の筋肉の張力を使った方が、自然で効率的ではないでしょうか。
大腿四頭筋での立ち上がりは、膝を伸ばすのが大腿四頭筋で、股関節を伸ばすのが殿筋という2モーションなのに対し、腿裏の張力の場合1モーションで済むことも、お分かりいただけるかと思います。
次回は、股関節で立ち上がるためのポイント
「螺旋の動き」と「大腿筋膜の秘密」
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