☆「姿勢が悪いと・・・・・」
もし、前述のような正しい姿勢を取ろうとした際、首から肩にかけて引っ張られるような違和感や腰に痛みが出るようであれば、アライメントが崩れていることを意味しています。
正しい姿勢をとるには、身体の各関節の可動が良好に保たれている必要があります。その関節の可動を左右する最も重要なファクターの一つが筋肉の柔軟性になります。
理想的な姿勢をとろうとしても大殿筋、ハムストリングス、腸腰筋といった筋肉が硬く、縮こまっていると股関節の動きが悪く膝が伸び切らず曲がってしまったり反り腰になってしまったりして、正しいポジションに骨が収まりません。
また、上肢でもご紹介した前鋸筋、小胸筋など胸筋群が硬く縮こまっていると肩甲骨が前に引き出され、肩が前に出てしまいます。すると肩甲骨が肋骨と背骨に寄りかかることができなくなり、腕の重さを首肩の筋肉で支えなければならなくなり、疲労が蓄積してしまいます。
また、胸腰椎移行部にうまく力を伝えられないため胸腰椎移行部の伸展が妨げられます。胸腰椎移行部の伸展により骨盤前傾が誘導されるので、胸腰椎移行部が伸展しないということは骨盤が後傾してしまい膝が曲がってしまいます。
結果、首肩のみならず背中、腰、太ももの前やふくらはぎの筋肉まで総動員して力によって身体を支えなければならなくなり、関節に対しても負担が増してしまいます。
身体は、全身がつながっていて連動します。一ヶ所が、硬く動きが悪くなると、全身に影響を及ぼします。常態化すれば、筋肉が疲れる、張る、凝るだけでなく痛めてしまい機能障害につながりかねません。
胸の筋肉が固くなり、肩甲骨が前に引っ張られると・・・
背中、腰が丸くなり骨盤が後傾すると膝が曲がってしまう。

姿勢が悪いと疲れる。
もはや、骨格で支えることができなくなる。
全身の筋力で支えなければならなくなる。
疲れる。
このように、負のスパイラルに入り込んでしまいます。
この負のスパイラル、実はかなり深刻な状態を招いてしまいます。
「姿勢は、悪いより真っすぐの方が見た目も良いし、いいよねー。」といった、軽い感じでは済まないのです。
「自律神経」
自律神経とは、文字通り「自律」しており、腕や脚のように自分の意志では動かせません。
自律神経には2種類あります。簡単に言いますと
「交感神経」・・・・・・・活発に活動するときに働く神経。よく「闘争」
「逃走」の神経、なんて言われます。
「副交感神経」・・・・・・リラックスするときの神経。
睡眠、内臓の働きを促進させます。
この二つの神経は、同時に働くのではなく、どちらかが働いているときは、一方はお休みします。つまり、日中仕事やスポーツをする場合は、交感神経が働き、バリバリ活動的に動くことができます。この時、副交感神経はお休みしています。
夜になり、リラックスモードになると今度は交感神経がお休みし、副交感神経が優位になります。すると眠くなり、内臓の働きが活発になり、食べたものの消化吸収を行い、栄養を末端の組織に行き届かせます。
このように人の身体は、活動時と休息時に二つの神経が切り替わることでバランスを保って、健康を維持しているわけです。
どちらかが働きすぎても、休みすぎても過不足が生じてしまいます。
自律神経の働き
交感神経は活動の神経です。肝臓のグリコーゲンを分解し骨格筋にエネルギーを与え骨格筋(筋肉)の動きを活発にします。また、心臓の働きを高め、血管を収縮させ血圧を上げます。
この働きにより人間は、身体をパワフルに動かすことが可能になります。非常に有益な働きをする神経です。
一言で言うと交感神経が興奮すると筋肉も興奮し緊張する、ということです。これは、逆も言えることで、筋肉が緊張し興奮していると交感神経も興奮し続けます。
姿勢の話に戻しましょう。
姿勢が悪い(骨格で支えられない)と全身の筋肉が使われている状態です。筋肉が緊張しています。特に首肩、背中の筋肉の緊張は、交感神経を興奮させます。一日中座ってパソコンなどで作業をした場合、座った姿勢が悪ければ、首肩背中の筋肉の張り凝り、緊張はかなりのものになります。
どんなに筋力が強くても力を入れれば疲労します。長時間の立位姿勢、座り姿勢の維持に力を使うと疲労が溜まり、筋肉に張りや凝りを生じてしまいます。これは、血流が悪くなって筋肉中に血液が溜まっている状態です。酸素や栄養分の補給がしにくくなるため筋肉は固くなってきます。すると、筋肉の間や深層を通る血管や神経を圧迫、牽引してしまいます。
圧を受けた血管や神経は正常な働きを制限されます。身体は全てつながっていて連鎖しています。一部の血行障害は、全身の血流にも悪影響を及ぼしてしまいます。
加えて、筋肉から緊張の信号が交感神経に発信され続け、筋緊張による交感神経の興奮が持続してしまいます。交感神経が興奮し続け、なかなか副交感神経に切り替わることができません。つまり、リラックスできない。ということになります。
交感神経の興奮が慢性化すると心拍数上昇、血管収縮、筋緊張の持続が起こります。副交感神経が働かないため、眠れなくなります。内臓諸器官の活動が低下し消化吸収がうまく行えなくなります。また精神的にも、ストレスの影響を受けやすくなってしまいます。
具体的な症状で言うと不眠、食欲減退もしくは過食、消化不良、下痢、便秘、血圧上昇といった状態が続いてしまうことを意味しています。長期間継続されてしまうと不眠症、肥満や、摂食障害、高血圧から生活習慣病を発症しかねない状況になるのです。
姿勢が悪いことで起こる負のスパイラルは、健康面に深刻な影響を与えてしまいます。
対策としては、行動体力の捉え方を、筋力、瞬発力、持久力、柔軟性、巧緻性、平衡性を一律に考えたり、筋力、瞬発力、持久力を特に重視してしまうのではなく、まず、第一に柔軟性、関節の可動域の確保を最も優先させることです。
筋肉が柔らかく関節が良好に動き、正しいポジションがとれると、筋力に頼らず、重力を利用し、骨格で支える立位姿勢が獲得できます。これが最も重要な対策になります。
柔軟性→姿勢→動作これが基本。
そこから、運動やトレーニング、スポーツをすることによって、その負荷に見合った筋力、瞬発力、持久力、平衡性、巧緻性が結果として身に付くという考え方が大切になります。
この基本ができていないのに、いきなり競技を始めたり、見様見真似のトレーニングをすることは非常に危険です。
立っている姿勢ですら筋肉に負担が掛かり、無理しているのにそこから動ける道理はないということです。
正しく立てる=正しく動ける
ここをクリアすることが最も重要なポイントになります。
☆「正しい姿勢による正のスパイラル」
正しい姿勢がとれれば、重力に抵抗せず、骨格で支えることができるため筋力を使いません。つまり、力みなくリラックスして立つことができます。人は動く時には、力が抜けてリラックスしていないとうまく動けません。
筋肉が緊張して、力が入っている場合、その力を上回る力を出さないと動けません。
例えるなら、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいる状態です。力みなく立つということはブレーキを解除できているということであり、スムーズに素早く動くことができます。
更に、姿勢のメカニズムで重要な体幹部の連動性。連動性は、そのまま運動、動きにも応用されます。姿勢が正しければ、意識しなくても、肩甲骨や骨盤、胸腰椎移行部が効率的に連動し、筋肉の張力により体幹部の出力が引き出されます。
腕や脚の小さな筋肉に頼らず、体幹部の大きな筋肉を使うことができます。大きい筋肉の方が当然、力も強いです。また、筋肉の収縮力ではなく張力を使います。単純に言うと、ストレッチをしながら動くことになります。
ストレッチしながら動くと、筋肉が大きく伸ばされて収縮して緩むというサイクルを繰り返すため、「ミルキングアクション」と呼ばれる筋肉による血行促進効果が効率的に行えます。
筋肉が「第二の心臓」と呼ばれる所以です。血行が促進されれば、筋肉の収縮に必要な、グルコースや酸素を運んでくれます。代謝産物である乳酸をエネルギーとして再利用し、二酸化炭素を排出してくれます。一言で言うと「疲れない」ということです。ストレッチされながら動くので、動けば動くほど関節の可動域が広がり動きやすくなります。
更に、体幹部の連動性で動くため、運動によって痛めやすい部位、肘、膝、肩あるいは腰に負担が掛からずに済みます。
素早く、スムーズに動け、より大きい力が発揮でき、疲れにくく動けば動くほど関節の動きが良くなり、ケガをしにくくなります。
やることなすこと全てプラスに働きます。これが正しい姿勢による正のスパイラル効果です。
正しい姿勢がとれない状態では、どんなに良いと言われるトレーニングや練習方法を実践しても、ただつらいだけで疲労が蓄積し筋肉の柔軟性が失われ、関節の可動域が制限されていきます。
硬くなった筋肉で、動かない関節を無理矢理動かせば、筋肉や関節、靭帯に負担をかけてしまい、ケガにつながってしまします。
これでは努力してもケガを繰り返してしまい、パフォーマンスが下がってしまいます。努力すれば努力するほど、本来持っているはずの才能を発揮させることから遠ざかってしまうのです。
対して、正しい姿勢がとれれば身体の負担が少なくケガもなく、練習すればするほど身になりパフォーマンスが上がり競技の結果につながります。より楽しんでスポーツに取り組むことができます。
人間の動作の本質を理解し、理想の動きが明確になれば、努力の方向性がはっきりします。どうすれば結果につながるのか道程が見えてくるのです。そうなれば努力が確実に結果につながり自身の持つ才能を開花させ、運も引き寄せることが可能になるのです。
姿勢の良い、悪いは、これ程の差を生じてしまうのです!
いかがでしょうか?
骨や関節の構造、筋肉の走行、生理機能を見ていくと「元々、重力を利用するようにできている」ということがよく解ります。当然と言えば当然の話。
地球上に生命が誕生したのが35億年前と言われていますが、35億年の進化の過程は、常に重力の下だった訳で、重力があることが前提で進化を繰り返してきたということになります。ということは自身にかかる重力を利用するように構造を進化させてきたと考えた方が自然です。
現時点で人間の重力を利用する身体構造は、生命の進化35億年の集大成と言っても過言ではないのです。
人間の身体構造的弱点だから肩こり、腰痛、膝痛になるのではなく、人間の素晴らしい身体機能に我々自身が気付いていない、理解していないのであって、その機能を使いこなしていないだけなのです。
漫画のセリフ(北斗の拳)に「常人は、己の潜在能力の30%しか使えないが・・」とありますが正しく理解して使えば、人間の身体が本来持つ秘められた能力を100%引き出すことができるのです(正確には、100%に限りなく近づけることができる)。
以上が、利重力身体操作法U.G.M.姿勢編になります。
次から、いよいよ「動作編」に入ります!
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