利重力身体操作法 Utilizing Gravity Movement (U.G.M)
動的動作編
人間は、全くの静止状態というのは厳密には無く、立ってジッとしているように見えても、立位姿勢を維持するために体内で微妙な調節を繰り返してバランスをとっています。
よって、静止しているように見える立姿勢、座り姿勢、あるいはスポーツや武道の構えの事を「静的動作」と呼んでいます。対して、明らかに動いていると分かる動作、歩く、走る、跳ぶ、投げる、打つetc.を「動的動作」と呼んでいます。
まず確認しましょう。静的動作編、立位姿勢でもお話した利重力身体操作法のポイント。
<重力に抵抗しない、重力を利用する身体の使い方>
・負荷(重力)を受ける
・骨で支える
・筋肉の収縮力に頼らない
・体幹部の筋肉の張力で出力 これら4項目を踏まえて人の動きを
1・「筋肉」の動きではなく、「骨」の動きを見る
2・筋肉の「収縮力」ではなく「張力」で考える
ということでした。
今回は、この利重力身体操作法のポイントを踏まえ「動き」についてみていきましょう。
一流アスリートが信じられないようなパフォーマンスを発揮する秘密は、一言で言うと「身体の使い方」です。さらに具体的には「重力を利用した身体の使い方」ということになります。
無駄な力を使って、重力に抵抗して力を発揮するよりも、元々重力を利用するようにできている人間の身体構造をフルに活用して、いかに効率的な動作が正確にできるかがカギとなります。
そこで、正しく動くには、正しい立位姿勢をとれる必要があります。正しい立位姿勢がとれれば、無駄な力を使わず立っていられます。結果、スムーズに反射的に身体に負担をかけず、体幹部の出力を引き出すことができます。
これが一流アスリートと一般の人との決定的な違いなのです。また、逆も真なりで正しく動くと姿勢も正しく矯正されていきます。
特に、十代の競技に真剣に取り組んでいる子、スポーツ選手を目指している子たちは、むやみに努力するのではなく、重力を利用する姿勢、動作の獲得を目指していけば、努力が報われる経験を積みながら最短距離で夢を叶えることができるとお話しました。
本当にそうなのか?
ただ立っているだけとは違って、複雑なスポーツの動きを行う際に筋肉の収縮力に頼らずにパフォーマンスを発揮できるものなのか?
確かに、筋肉の収縮力を「使わない」と言ってしまうと語弊があります。パフォーマンスを発揮するには、筋力はもちろん必要なのですが、二の次三の次だということなのです。
最も重視すべきは、やはり「身体の使い方の原則」なのです。
ここからは、一流アスリートの身体の使い方の秘密に、解剖学的視点から迫ってみましょう。
一流アスリートの身体の使い方の秘密。
分かりやすい例として、手に持ったものを持ち上げる動作を見ていきましょう。ちょっと皆さんもやってみましょう。もしかしたら、一流アスリートになれる素質が見いだせるかもしれません。
なんでもいいので、少し重量のあるものを手にもって肩の方に引き上げてみましょう。
例えば、こんな感じで持ち上げてみま しょう。
どの関節、筋肉をメインに使いましたか?恐らく、ほとんどの方は肘を曲げることを意識して持ち上げたことでしょう。筋肉で言うと上腕二頭筋という力こぶの筋肉を使ったものと思います。
「普通、そうでしょ?」と思われた方、
そうです。普通はそうなります。
がしかし、一流アスリートは「普通」ではないのです。普通の動きをしていては、普通のパフォーマンスしか発揮できません。一流アスリートが信じられないような能力を発揮するのは、普通ではないからです。
では、一流アスリートと呼ばれる人たちは、どのように腕を使っているのでしょう?
腕の関節は、肩、肘、手首(手指の関節は省略します)だけではありません。他にも、肩甲胸郭関節(けんこうきょうかくかんせつ)、肩鎖関節(けんさかんせつ)、胸鎖関節(きょうさかんせつ)といった関節があります。
肩甲胸郭関節・・・・・・肩甲骨と胸郭で構成される関節です。
一般的な関節と違い、骨と骨が靭帯でつながれて
いるのではなく、胸郭(肋骨)の後面を滑るよう
に動く関節です。
肩鎖関節・・・・・・・・肩甲骨と鎖骨がつながっている関節。肩の一番外
側の突端部、肩峰と呼ばれる部位になります。
胸鎖関節・・・・・・・・胸骨と鎖骨で構成される関節。
このように、ほとんどの人体の関節は構成される骨の名前をつなぎ合わせて名付けられています。
実は、この関節達も腕の一部なのです。腕とは、肩から先の部分という固定概念がある為か、腕を使おうとすると肩、肘、手首で仕事をさせようとします。それが「普通」になっています。
普通ではない一流アスリートは意識的にも無意識的にしろ、これら肩甲骨、鎖骨をうまく使って腕に仕事をさせているのです。
では、一流アスリートの物を持ち上げる動作とは、どのようなものでしょうか?
次回に続きます。
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