身体と心は同じもの・・・・
このシリーズを通してお話してきた解剖学を基にした本来あるべき人間の動作は、あくまで基本的な「静的動作」と「動的動作」であり、競技者の場合、実際のスポーツ、競技動作に応用する必要があります。
また、競技をされていない方でも、日常の動作、歩く、階段を昇る、掃除機をかける、物を持ち上げる、といった普段の何気ない動作に応用していければ良いということになります。
ただし、応用はあくまで応用であり、基本を押えていればどのような形にも変化させ当てはめることが可能になります。
基本を押えることが人間のパフォーマンスを向上させるには最も重要になります。そのための身体の使い方の基本例を、これまでいくつかご紹介してきました。
身体の使い方のポイント、中でも一番の肝になるのは、自身にかかる負荷を体幹部の中心である「胸腰椎移行部に受け入れる」ことです。
四肢末端にかかる負荷、衝撃に抵抗することなく受け入れ、身体の中心部である胸腰椎移行部に集約させます。
結果、体幹部の出力が引き出され、負荷、衝撃に対して真っ直ぐ軸ができ、ダイレクトに力を返すことができます。しかも、その力は過不足なく必要な力が必要な分だけ効率的に自然な形で発揮されるのです。
更に、以上のような出力の仕方が人間の身体構造から見て、肩、腰、膝などの関節や靭帯に負担がかからないということを、ここまでお読みいただいた方はお分かりいただけるでしょう。
誰でも大きな負荷や衝撃が自分の身体に掛かってくると構えてしまいます。負荷に対して負けまい、あるいは身を守るために力を入れて抵抗しようとします。当然と言えば当然の話なのですが、これでは負荷を受け入れることができず、人体構造を活かした動作ができなくなってしまいます。
誰でも、自身に圧し掛かる負荷、衝撃に対しては「怖さ」を感じるものです。怖いから力んで抵抗し、力の伝達方向を捻じ曲げ避けようとしてしまいます。
負荷を受け入れるには「怖さ」を払拭する必要があります。ここに練習の必要性があるのです。練習により慣れることで自信を獲得し、怖さを払拭させれば負荷を受け入れることが可能になります。
身体の使い方の基本が理解できると、練習の目的がタイムや点数、重量、記録、など数字を出すことを第一とするのではなく、正しい身体の使い方を身に付け、負荷を受け入れるキャパを大きくしていくことが第一の目的となり、結果的に、数字が向上するといったように練習の目的自体が変わります。
練習量、負荷を過剰にかけても、疲労で身体の使い方が崩れてしまってからの練習は、全く意味がありません。意味がないどころか、身体に負担をかけてしまいケガの元になります。
これではパフォーマンスの向上どころではありません。本番の為の練習のはずが練習のための練習になってしまい、いざ本番で力を発揮することができなくなってしまいます。練習量や負荷は、その子の身体の使い方が崩れない範囲で決める必要があるのです。
「褒めて育てる」
正しい身体の使い方を実践していくと、精神面も同じなのだと気づかされることが多々あります。
身体的にも精神的にも負荷、ストレスを受け入れるとは、非常に難しいものです。誰でも負荷を受けることは煩わしいことなので抵抗し、避けようとします。ただ、ほんの少しでもポジティブに受け入れることができると驚くほど楽に的確に負荷、ストレスに対して応えることができるのが分かります。
もちろん全てのストレスに対して上手にできたら、それはもう聖人君子と呼ばれる人であって、とてもそこまでの悟りの境地には行けませんが・・・
ただ、ほんの少しずつでも身に付けていくことは可能です。
可能にする要因は、やはり「自信を持つこと」練習によって自信を獲得する必要があります。特に子ども達が自信を持つ最も効果的な方法は人に褒められること。「褒めて育てる」と言いますが、そういうことではないだろうか?と考えさせられます。
褒められ、自信を持つことによって、身体的、精神的負荷に対する恐怖心が軽減され、負荷を深部まで受け入れることを可能にしてくれます。
受け入れることができれば、身体も心も無理なく効率的に力を発揮することができます。
このことが更なる自信につながります。自信を持つことは、「勝ちたい」「負けたくない」という欲求に対しても火をつけてくれます。能動的に取り組む姿勢も養われます。
スポーツ、競技に限らず、子ども達に対して褒めるとは、自己受容を促すということであり、自分を受容できることで他者を受容することもでき、仲間やライバルとの中で身体と心や技術を磨いていくことにつながって行くのではないでしょうか。
ここに褒めることで小さい頃から自信を持たせることの大切さがあると考えています。
競技、スポーツに励む子ども達の努力が、確実に目標に向かって報われるためのステップを踏んでいくには、指導者の存在が非常に大きいものになります。
たまたま良き指導者に出会い才能を開花させる子もいるでしょう。しかし、「たまたま」では、あまりにも運任せの要素が大きすぎると感じます。
子どものスポーツに関わる全ての指導者が正しい身体の使い方を身に付けていなくても良いのです。正しい「身体の使い方の知識」だけでも持てば、一人でも多くの子ども達が「努力は結果につながる」「努力は報われる」という経験を数多く積むことができるのではないでしょうか。
そうなれば、努力することの素晴らしさや、結果を出すことの楽しさを体験し、健康的に競技、スポーツに取り組み、より多くの子ども達が、その尊さ、素晴らしさに気づくことができると考えています。
多くの人が「利重力身体操作法 U.G.M.」をご理解いただき、正しい姿勢、正しい身体の使い方が一般的な常識となり、一人でも多くの子ども達がスポーツ、競技の恩恵を最大限受けることができるようになれば、これ以上の喜びはありません。
では、一先ず「利重力身体操作法U.G.M.」姿勢、動作基礎編シリーズは、ここまでとしたいと思います。
お付き合いいただき、ありがとうございます!
特に、#1から#32までお読みいただいた方、本当にありがとうございます!!
完
ちなみに
応用は、こんな感じになります。一例。
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